『モーニングコーヒー』
ゆらゆらと光を反射する黒い液体。
そのままでは苦みばかりが強くて美味くないのだ
君はそう言って取り出した砂糖の塊を二つ、カップの中に放り込んだ。
決して大きめではないカップに二つも角砂糖を加え、さぞ甘ったるくなってしまったただろうコーヒーを口に含むナルト。
うーん、もう少しかな、と思案するその姿によくそんなものが飲めるな、とサスケは露骨に眉を寄せる。
少し遅く起きた休日の朝、美味いモーニングコーヒーをとせがまれて。
面倒くさいと思いながらも普段は使わないコーヒーメーカーを引っ張り出し、インスタントではないものを淹れてやったというのに、そんな飲み方をされては少々納得がいかない。
不満げなサスケの表情からその内心を察したらしいナルトは、誤魔化すように歯を見せて笑いながら三つ目の砂糖をコーヒーに落としくるくるとかき混ぜ、サスケが淹れてくれるとコーヒーって美味い気がするってばよ、と見え透いたお世辞でご機嫌を伺ってきた。
カップの中ではたっぷりと糖分を含み、心なしか粘度の増した気がするコーヒーがたぷんと跳ねて波打つ。
もう砂糖を三つも入れたのにまだ物足りないのか、ナルトの手が小瓶のミルクに伸ばされるのを見て、流石に呆れる。
サスケのカップの中は砂糖もミルクも加えないブラックコーヒーだ。
コクのある苦味が舌を刺すシンプルさが気に入っているのが、ナルトから言わせればその愛想のなさがサスケ自身とそっくりらしい。
似た者同士…いや、今はちがうか。
と、含み笑いを浮かべるナルトに眉間の皺が深くなる。なんだ、コイツ何想像してやがる。
どうせろくでもない事だろうから、サスケはあえて言及はしない。
コーヒー牛乳で精一杯だったガキの頃とは違ってナルトだって少しは知恵が回るようになった。いくら砂糖とミルクで 甘くしているとはいえもう二人向き合ってモーニングコーヒーを飲むような年なのだ。
そう、これはモーニングコーヒー。二人で過ごした夜が明けた朝の、夢から現実へと還るほんの僅かなモラトリアム。
口の中に広がる暖かな苦みを飲み下すと、正面に座るナルトがただでさえ甘いコーヒーにミルクをたっぷりと注ぎ込むのが視界に映る。
とろとろと注がれる白い液体。
頑なな黒に混ざり溶けていくその様が、なんとなく気恥ずかしい。
苦いばかりのサスケに砂糖のような睦言と、たっぷりのミルク。
ナルトの好みに変えられるコーヒーはまるでそれを甘受する自分さながら。
角砂糖三つにミルクをなみなみと注いだコーヒーに口を付けて、ようやく納得の味を得たらしいナルトが「うまい」と笑顔を見せた。
そんなに甘くしてしまって元の味がわかるものなのか。
モーニングコーヒー。愛し合った夜から、互いの現実へ還る僅かな時間。
今しばらくはナルト好みでいるのも悪くないかもしれない。
身を乗り出して甘ったるい唇にそっと口付けてみよう。
そして愛想のないブラックコーヒーで甘さを消してから、今日もサスケは現実へ帰るのだ。